5月
09
空中戦

ツバメが騒ぐ。
いつも機嫌良く賑やかにさえずっているツバメが、金切り声をあげて高速で旋回している。何羽も。
何事だろうとしばらく様子をうかがっていると、原因が見えてきた。
カラスに巣を狙われているようだ。
カラスは周りで騒いでいるツバメを尻目に動じず巣の近くまで飛び込んでいくが、結局獲物は得られずに飛び去っていくようなことを、何度も何度も繰り返している。
そのたびにツバメたちは大騒動だ。

別の日、別のところ。
車から降りたとたん、ケリがけたたましく叫んでいる。こいつは元々うるさいやつだから、「あ、ケリだ」程度でやり過ごそうとしたのだが、いきなり私にめがけて急降下してきた。と思った。
なんか気に触ることしちゃったのかな、と思って周りを見渡したがよくわからない。
何度目かの急降下を目撃しながら、対象が私ではないことに気がついた。
対象はカラスだ。
ケリは止まっているカラスに向かって執拗に急降下を繰り返しているが、接触するまでには近づけず1m位のところで離脱する。
カラスは動じない。反撃すらしない。

ついつい「ケリ、がんばれ!」
と思ったが、次の瞬間「いや待てよ」と思い直した。

ツバメやケリは、卵や雛をカラスに捕られまいとして防御してる。
人は勝手なもので、いじめられている様に見えるツバメやケリの味方をしてしまう。
場合によっては彼らに代わってカラスを追い払うこともやってしまいそうだ。
人間のゴミを漁って散らかすイメージがあって、憎っくきカラス、と短絡するんだろうな。

でも「それって間違っていないか?」となぜか突然思い至ったのだ。
カラスだって子育て中かもしれないし、自分が腹ぺこかもしれない。獲物を得られなければきっと生きていけないだろう。カラスにとっては当然の行動に違いない。
はたして、カラスは悪いことしてるのか? 悪い事してると人が勝手に判断して良いのか?
 

生きている子犬を釣り針につけて海に投げ入れ、鮫を釣っている写真を見て愕然となったことがある。
見た瞬間、頭にカッと血が上るのが判ったが、その時もやはり次の瞬間、別のことに思い至ったのだ。
「おまえは釣りをするとき、生きたゴカイやらエビやら使うだろう?鰺の生き餌だってふつうに使う。それは良いのか?許されるのか?」
しばらくの間とても複雑な気持ちになり、ようやく(無理矢理)自分の中で落ち着かせた思いは「自分が生きるためにほかの命を頂かなければいけないのだから、だからこそ命を粗末にしてはいけない。」という、ごく当たり前の事だった。
生き延びるための殺生と、人の快楽のために命を粗末にすることの違いはきちんとわきまえないと駄目だぞ。人間は思い上がっちゃいけないな、と。ほかの生き物に助けてもらっているのだ、ということを決して忘れちゃいけないな、と。

ナウシカ(コミック版)に、森の人が虫の卵を食べるシーンで、それを見たナウシカが「そんなことして虫は怒らないのか?」と聞き、「奪うのではないんだ。お願いして少しだけ分けてもらうんだ。」と返す場面がある。
 

ツバメとケリとカラスを見ながらそんなことをつらつらと考えた。
みんな生きることに一生懸命なんだよ。
でも奴らは決して必要以上のことはしないんだよ、きっと。
ツバメもケリもカラスも、みんながんばれ。